はじめに

「蘇生するユニコーン」は、非実在の生物であるユニコーンを実在させ蘇生させるというプロジェクトで、骨や内臓や筋肉など、身体を構成するあらゆる部位を制作することで実在に近づけ、また制作した肺に人工呼吸器を繋ぎ呼吸させることで蘇生を目指す。

まず骨から制作し、内臓、筋肉、皮膚と進んでいくが、制作が進むにつれ骨や内臓は外部から見えなくなってしまうので、このサイトや展示によってアーカイブを残していく。

前作「保存と再現」で愛犬を作り終えたあと、ゆっくりと呼吸を繰り返す作品の犬を眺めながら「次は何を生き返らせようか」と考えていた。その時思い浮かんだのは、実在する生物ではない、架空の生物のことだった。架空の生物が頭に浮かんだのは、愛犬の見た目が段々犬らしくなくなっていて、ネバーエンディングストーリーのファルコンや、ヒックとドラゴンのトゥース、ハリーポッターのドビーみたいな、物語のなかの生物に見える瞬間があったことや、ロスで若冲の「鳥獣花木図屏風」を見たとき、この天国には実在する生物と架空の生物が混在しているというような話を聞いたことも少し関係していると思う。
だけどそれらの生物は自分のなかで、現実世界にはいないものとして完璧に分類されていた。小さいころはいた気がするのに今はいないということは、その生物たちは知らない間に死んでいたのかもしれない。そして、自分の脳内にその生物の死体が横たわっているような気がした。

ああ、どうして私はこの純粋無垢な生物たちを、殺してしまったんだろう。どんな動機でこの生物を殺したんだろうか。生きていくために不可欠だったのだとしたら、どうして私はこの死体を口にすることなく、屍のまま放置しているんだろう。

この生物は殺してはいけなかった。私は、死体として今だ横たわるこの生物を、生き返えすことができるだろうか。

架空の生物を制作によって実在させ、人工呼吸器によって息を吹き返させることは、自分が失った幻想を蘇生させるということだ。
どうして私はこの生物を殺してしまったのか、私はその生物を現世へ実在させ、また蘇生することができるか。自ら生んだその問いの深遠へ潜りながら、答えを探り出していく。

架空の生物が横たわりゆっくり呼吸する姿はとても美しいだろうと思う。

今制作は頭蓋骨と第1〜7頚椎まで出来ていて、その様子は3月に名古屋で展示した。今は胸郭の制作を進めている。初めての更新だったので、制作のバックボーンの話でおしまい。骨の話はまた今度にします。

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