りんについて

「保存と再現」の愛犬りんが、7月24日(金)の午前に亡くなりました。
今日はその日から8週間後で、先週大阪での作品撮影を終え、少し気持ちが制作に向いてきた気がするのでこれを書いています。

「保存と再現」は2年前のりんが生きている頃、病気で余命僅かといわれていたりんのサイズを測って設計図を作り、骨から作って再現し、りんをこの世に保存しようとした作品です。その後何度か作り直しやリニューアルを経て今に至っています。以下はりんが亡くなる前後起こったことの記録です。

名古屋での展示が終わった7月初週から月末まで、週末は毎週実家に帰っていました。りんは7月から一般家庭用の小型酸素室に入っていて、終日そのなかで暮らしていました。
レンタルで借りた酸素室は、十分に肺に酸素を取り込めない小型の動物用のもので、コンプレッサーが繋がった透明のアクリル箱のなかは周囲の空気より3割程酸素濃度が高くなるそうです。りんは持病の壊死髄膜脳炎とクッシング症から肺血栓寒栓症になり、自発的な呼吸が満足にできない状態でした。

亡くなる前の数ヶ月、りんの見た目はどんどん「保存と再現」の犬に似てきていて、りんに似せようと作った作品の犬にりん自身がどんどん似ていってしまうのがとても怖かったというか、「保存と再現」の犬にりんが引き込まれていくようで、とんでもないことをしてしまったのではないかという恐怖がありました。
「保存と再現」を制作した当時のりんは、呼吸補助を必要としないただ寝たきりの状態で、酸素マスクとかはしていなかったんだけど、(「保存と再現」ではただ作品の犬にも呼吸をさせたくてコンプレッサーを繋いで空気を送っていました。)
それがいよいよ本当のりんまで呼吸補助が必要になってしまって、状況がどんどん「保存と再現」の犬に近づいていくのが当時はとても怖かったです。

というよりも、りんは犬だけど犬ではなくなっていて、ドラゴンみたいな空想上の生物に近いような気がしていて、そういう話を家族としていました。一番近いのは「保存と再現」の犬だけど、「ネバーエンディングストーリー」のファルコンとか、「ハリーポッター」のドビーとか、そういう空想上の生物にもよく似ていて、とにかく私達が連想するような「犬」ではなくなっていました。

りんが亡くなった日は、普通に仕事をしていて母からの着信に気づかず、着信から30分後にメールを見て初めてりんの死を知りました。その翌日が大阪での作品撮影日で、一度実家に戻ることになっていたため帰省の準備はできていたので、そのまますぐ実家に帰ってまだ微かに体温が残るりんに会うことができました。家族の希望で火葬ということになったので火葬場を決め、その後は静かにりんと横になったりしていました。
死後硬直が始まっても、眼球が柔らかくなっていても、りんはりんとしてとても愛おしく、その夜家族がつぶやいた「りんは死んでも可愛い」という言葉は本当その通りで、りんは亡くなっても可愛く愛おしいままでした。5年間の闘病に耐えてくれたことと、りんはもう苦しまなくていいんだという安堵感と、色んな気持ちが混ざり合って、それは今も続いています。

火葬はペット火葬としてパッケージされたものではなく、読経と火葬だけのシンプルなもので、実家からそう遠くないお寺で行いました。そのお寺は偶然姉が学生時代仲が良かった同級生のご実家のお寺で、少しでも縁のある場所で火葬できることにほっとしていました。
でも、この火葬はずっと忘れることができないと思います。
動物の火葬というものを始めて経験したんだけど、人間より儀式立ってなく自由というか、より密接に行うことができました。長期治療の影響で骨も満足に残らないと思ってたけど、すごくしっかり骨が残った状態で火葬炉から出てきてくれました。

その骨ひとつひとつに既視感があったのは「保存と再現」でりんの骨を作っているからで、その時何故かすごく感動してしまったのを強く覚えています。箸で拾えない程小さな骨もすべて手で拾って、本当に小さな指の骨や爪や頚椎から尾椎、細い肋骨や手足の骨まで全て、家族にこれがどこの骨か話しながら拾いました。

その時感動したのは、あの時作ったあの骨は本当にりんのなかにあったんだという気持ちと、それが火葬炉にりんが入った瞬間に感じた絶望から、また会えたという気持ちに繋がったこと、そしてその骨の小ささや精巧さを本当に美しく思えたからだという気がします。
りんは骨になっても可愛いと家族と話しました。

りんはそうやって私や家族に、5年間の月日をかけて死について教えてくれていて、そこから「保存と再現」が作られたのだと思うと、りんへの愛情と感謝は今も尽きることがありません。
りんの死後、「保存と再現」の犬の存在に対する意識がどう変化するか、もう少し自分のなかで考えていこうと思います。のでまだ「保存と再現」の物語は続きますが、とりあえず今はここで記録を終わります。